活動報告:2019年11月度定例会

 11月度定例会は、中郡会員の企画として「『ビジネスに活かす芸術思考』~アーティストが0から1を生み出す思考をヒントにイノベーションを起こす~」と題し、芸術思考学会副会長の秋山ゆかり様、芸術思考学会事務局長の浅井由剛様から、「アート思考とは何か」、「アート思考の実践例」についてご講演いただきました。

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■アート思考とは何か

 はじめに、秋山ゆかり様から芸術思考の生い立ちを含め「アート思考とは何か」について、ご紹介いただきました。秋山様は、GE Internationalや日本IBMで事業開発の責任者を勤められました後、「株式会社Leonessa」で戦略・事業開発コンサルタントとして活躍されている一方、声楽家としても活動をしている方です。

 「芸術思考」は、明治大学法学部教授・理学博士である阪井氏、画家、アートセラピー研究者、東北芸術工科大学講師である有賀氏による造語です。人が芸術を作り出すときに創出・創発する思考プロセスからヒントを得て、学習者主導の「生きる力」をはぐくむアプローチとして2012年に構想されました。また、「芸術思考学会」は、芸術思考に関する学術的研究を活性化するとともに、教育現場や新規事業創造における芸術思考の普及をはかることを目的とし2018年に設立されました。

 事業開発のプロセスと声楽家としての舞台づくりの共通スキルとして、①作りたいもののイメージ作りをして共有するプロセス②人を巻き込み、多様な人たちを一つの目標に動かすコミュニケーション③成功しないかもしれない恐怖と向き合い挑戦し続けるマインドセット、の3点をあげられました。

 アート思考は、①自分の感情を深堀りする(イノベーションの源)、②表現する(イノベーションの行為)、③誰かと共鳴する(イノベーションの成就)という3つのプロセスで構成されています。特に第1のステップでは、自分の感情の深堀りによる気づき、自分と世界の関係を発見・理解することが大切になるそうです。そして、チクセントミハイ氏が提唱している個人起点のcreativityだけでなく、公共における創造性「“Big C” Creativity」を意識することが、大きなビジネスを作っていく上でカギとなってくるとのことです。また、イノベーションはまったく新しい領域で起こすだけでなく、1つの領域でも起こし続けることが可能であり、その成功事例として月桂冠をとりあげられました。イノベーションを起こす際には、まったく新しい領域なのか、隣接する領域なのか、現在の事業の深掘りなのか、どの軸でイノベーションを起こすのか、企業として明確にしておくことが大切になります。また、ユニリーバに例をとり、チャレンジとスキルのバランスが取れていることが、成功の条件であるとご説明いただきました。

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■アート思考の実践例

 続いて、浅井由剛様から「アート思考の実践例」についてご紹介いただきました。浅井様は、「株式会社カラーコード」で代表を務められながら、静岡県地域づくりアドバイザー、明治大学サービス創新研究所客員研究員としてもご活躍されている方です。

 まず、デザイン思考とアート思考の違いをご説明いただきました。デザイン思考が問題解決型のアプローチであるのに対し、アート思考は自分の感情部分にアクセスし、掘り下げることで熱い気持を呼び起こし、共感を呼ぶアプローチであるという違いがあるそうです。

 デッサンは、見ている対象をそのまま紙に描いているように思われていますが、実は違います。モチーフを観察して知覚した情報を元に、あるべき絵のイメージを頭の中で構築し、そのイメージをキャンバス上に再構成して描いているのです。絵に苦手意識を持つ方は頭の中でイメージを構築できていないことが多いのです。まずあるべき姿をより具体的にイメージすることが重要になります。そのために「観察」が大切になります。そして、アウトプットを具体的に考えながら観察する方がただ観察するよりもインプットされる情報量は多くなります。これは、新製品や新規事業など現在の世界に無いものを人に伝える能力の向上に有効であるというご説明をいただきました。

 アート思考の実践例として、老舗ネオンサイン企業と川根本町で実施したワークショップを取り上げられました。老舗ネオンサイン企業では、仕事と自分の未来(企画)を考え、自社発信サービスを作るきっかけとなりました。川根本町では、故郷と自分の関係性を再構築でき、町の在り方を考えるきっかけとなったそうです。ワークショップを通して、社員や職員が、自分たちの会社、自分たちの故郷への見方や考え方が変わっていった様子をご説明いただきました。また、川根本町シティブランディングビデオ映像を交えながら、ワークショップ時の参加者の様子などについてもお話をいただきました。

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■質疑応答

最後に、予定されていた残り時間いっぱいを使って活発な質疑応答が行われました。聴講した会員との間で交わされた質疑応答の一部を紹介します。

(質問)世間と自分の感情の距離感が合わない場合の対処方法はあるか。
(回答)時代を先取りしすぎて社会に受け入れなかった「世界初音楽ダウンロードサービス」の失敗経験があるため、共鳴を得られないときは断念している。世の中の半歩程度先を捉えているものが成功している。

(質問)アーティストのようなバックボーンを持たない人でもアート思考を活用できるか。
(回答)自分の感情にアクセスすることができれば可能であり、そこをファシリテートしていくのがワークショップの意義のひとつである。また、アート思考実践のツールとして、自分と向き合うためにジャーナリングを行うことが有効である。
 *ジャーナリングについては次のコラムを参照のこと
 「3つの質問」に答えていくと、自分の心の動きが見えてくる

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実体験を元にした講演、質疑への回答を行っていただき非常に有意義な月例会となりました。最後は、秋山様、浅井様に向けての大きな拍手をもって閉会しました。