2016年11月度の定例会についてご報告致します。
11月度定例会は、中小企業政策研究会のビジネスモデルカフェの代表を務める木下忠会員の企画として、
『下町ロケットに学ぶ中小企業の知財経営戦略』
と題して、今さら聞けない知財の基礎的な知識から、中小企業経営の知財経営戦略に実際役立つような情報まで、池井戸潤原作の「下町ロケット」のエピソードに沿って講演を行っていただきました。
エピソード:競合大手メーカーから特許権侵害で訴えられる
多くの企業が競合他社に特許権侵害で訴えられる可能性があります。そして、従来の製造業とは異なり、IT・IOT(Internet of Things)・AIのような新しい分野では特許が成立しやすいため、訴訟リスクは高いと言えます。
そもそも、何を目的に企業が訴訟を起こすのか、意図を理解する必要があります。「訴訟による顧客離れ→資金繰り悪化→企業買収」が目的かもしれません。
技術開発や特許権を実施せずに、ライセンスや訴訟で稼ぐ「パテントトロール」とよばれる企業が存在しますので、それへの対応も必要です。
エピソード:研究開発の意義が社内外で理解されない
研究開発の意義は、経理担当者や銀行の融資担当には理解しにくいものです。実際、知財は無形固定資産なので、その価値は分かりにくく、そして特許を取っている中小企業は全体の13%にすぎません。
しかし、中小企業にとっての知財とは「うちに秘めた潜在能力」であり、それを特許という形で見える化、権利化することが重要です。実際、特許を取っている企業の方が収益性もたかく、顧客への価値提案の可能性も高まり、ステークホルダーや市場・チャネルへの訴求力もあると考えられます。
エピソード:何故、技術力の高い佃製作所が訴えられたのか?
特許は、特許出願の記載内容がすべてです。技術が高いから特許が良いわけではありません。特許請求は技術を全て文字で表現しなければならず、範囲を明示するのは非常に難しく、実際の権利範囲は取得したい範囲よりも狭くなりがちです。結果、自社の改良特許を取ろうとしたとき、既にその領域は他社の特許が押さえているために、改良特許が取れない可能性があります。そうならないためには、「抽象度を上げて概念化して特許出願を記載し」、できるだけ権利取得範囲を広くとれる工夫が必要です。
実際ダイソーで発売された「ペットボトルの上に載せる新幹線型の鉛筆削り」と、「それよりも前に出願したであろう個人が取った鉛筆削りの特許」を比較してみて下さい。
エピソード:オリジナリティが重要なのか?
特許は紙に書かれていることが全てですから、そこに特許範囲が明記されていることが重要です。また、国ごとに特許は異なるため、権利は各国で申請する必要があります。特許侵害を防ぐためには、各国で同じように出願する必要があります。
また、他社の特許権を回避する方法として、「購入する」以外にも、「当該特許無効の申し立てをする」、「使用許諾を得る」、「クロスライセンスを結ぶ」、「先使用権を確保する」等が考えられます。
共同開発:大企業の心をつかむための秘策
共同開発は、大企業の心をつかむための秘策と言えます。しかし、自己実施しなければ、大企業に利用されるだけに留まる可能性が高いです。そうならないために、
・成果物は共有であることに留意し、実施しない場合のマネタイズ方法を検討する。
・大企業との交渉力は、共同開発前が、後に比べて高い傾向があるので、事前に検討する。
・知財の取扱いは事前に契約を結び、極力基本技術は自社で押さえる。
ことをお勧めします。
競合企業「この設計図のデータを預けてくれないか?」
知財は、特許としてだけでなく、ノウハウとして保護することも重要です。そのためにも、「秘密管理性」といった「不正競争防止法」の基本的な知識は理解しておくことが重要です。
また、知財権を活用したビジネスモデルとして、基本製品を低価格で販売し消耗品を特許権で抑える「プリンターモデル」、基本特許は自前、周辺は共同開発をおこない市場の普及を図る「オープンクローズ戦略」といったものが考えられます。
以上が、当日の木下忠会員のプレゼンテーション内容になります。
プレゼンテーションの途中では、ダイソーで発売された「ペットボトルの上に載せる新幹線型の鉛筆削り」と、「それよりも前に出願したであろう個人が取った鉛筆削りの特許」を比較し、「鉛筆削りの特許」の記載上の問題点を参加者でディスカッションしました。それにより、特許を記載する上での留意点をより深く理解することができました。
「下町ロケット」という身近な題材によって、今後中小企業を支援していく上で知財権は避けて通れない問題であること理解すると同時に、一次試験知識の重要性を改めて感じた一日でした。
以上