2019年2月度定例会 活動報告

2019年2月度定例会 活動報告

 

2月度定例会は、FATと中小企業M&A研究会の合同企画として「プロジェクトF ~創業者の想い、M&Aに挑んだ診断士たち~」と題して、中小企業M&Aの理解を深める講義とグループワークが行われました。

 

■中小企業のM&A

冒頭で、FATの宇都会員より、今回の合同企画の経緯、企画の目的、本日の流れについてお話いただきました。

図1

その後、中小企業M&A研究会の飯野会員より、中小企業のM&Aのニーズや実態、押さえるべきポイントについてご説明いただきました。

中小企業を取り巻く環境として、後継者不在に悩む中小企業が増えており、国や自治体などがM&Aを促していること、また、スタートアップ企業を主なターゲットに新事業や研究開発力向上を目的としたM&Aが増えている状況があり、診断士としても中小企業のM&Aの実態やポイントを押さえておく必要があるということでした。

中小企業のM&Aの実態として、オーナー以外に経営状態・財務を把握している「番頭」を押さえる必要があること、信頼関係の構築や誠実な情報開示などが成功するM&Aのポイントであると述べられました。

図2

■FAT印刷を舞台としたM&Aのグループワーク

続いて、宇都会員より、グループワークの事例について説明がありました。過去の定例会で数回登場し幾多の難局を乗り越えてきた「FAT印刷」。同人誌印刷にも進出し、業容が拡大基調のFAT印刷に対し、首都圏エリアへの進出を目論む関西のM印刷から買収意向が示されたという設定です。

今回のグループワークは、秘密保持契約締結後の「意向表明書を提示」する段階の想定であり、意向表明書には、今後の正式交渉のベースとなる希望買収価格、買収の諸条件を記載し提示するものであると、飯野会員からM&A実務の流れの紹介とあわせて説明をいただきました。

 

グループワークでは、FATとM&A研究会の会員が、各グループにファシリテーターとして付き、FAT印刷の番頭である殿山経理部長役になりました。グループメンバーは買手のM印刷の立場で、配付されたFAT印刷の直近のBS、PL、今後の収支計画を確認し、FAT印刷の企業価値算定をおこなうために必要なヒアリングを、殿山経理部長に行いました。

図3

グループメンバーは、簿価純資産価額と時価純資産価額、営業権(のれん)など、飯野会員からの補足説明も参考にしながら、回収が懸念されるため評価減すべき項目やプラス評価すべき項目を洗い出し、殿山経理部長に質問を繰り返していました。はじめは何をどう質問したらよいか悩みつつ、殿山経理部長への質問を重ねるごとに、勘所を押さえてヒアリングを重ねるグループもあれば、突っ込みが鋭く、企画側が想定していたポイントをことごとく指摘してヒアリングしたグループなど、さまざまでした。

 

ヒアリング後、時価純資産価額の評価と、今後の事業展開見通しを3パターンでシミュレーションしたDCF法の価格を勘案して、FAT印刷に提示する希望買収価格をグループメンバー内で決定し、各グループが順に意向表明書を殿山経理部長に提示しました。

FAT印刷が想定していた買収価格より低い額が提示され、殿山経理部長が「この話はなかったことに・・」と退席したところが2グループありましたが、大半は交渉継続となりました。1億円以上の買収価格提示により殿山経理部長が歓喜の握手をしたグループが1グループでたときは、会場は拍手で盛り上がりました。

グループワーク後、FAT及び中小企業M&A研究会が想定していた解答例が示され、時価純資産法で評価減すべき要素、営業権の評価について解説いただきました。短時間のグループワークでしたが、買手と売手の相対で価格が決まっていく過程を体験できた時間となりました。

 

■最後に

飯野会員より、中小企業のM&Aを成功させるポイントとして、

-都合が悪いことも前倒しで伝えるなど、常に誠実であることが重要

-オーナーにとっては人生の一大決断であるため、経営者の気持ちを忖度した親身の助言を心がける

-価格には正解はない。過剰な経費の計上、簿外債務などの確認をしっかり行い、正常な利益水準の見極め、バランスシートの適切な評価し直しが重要

など、診断士としてM&Aに関与する際に留意すべき点をお話いただきました。

図4

価格の折り合いがついても買手が買収資金の調達ができないケースもあるなど、基本合意後のアクシデントなど、実体験からのお話も聞くことができ、また、希望買収価格を算出する疑似体験のグループワークを通じて中小企業のM&Aの一端を感じ、理解を深めることができた定例会となりました。 

図5